近年注目を集める「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは?
金融教育は、2022年4月から高校で始まるなど注目が高まっていますが、2024年4月には日本で金融経済教育を推進していくために、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づく認可法人、金融経済教育推進機構(J-FLEC、ジェイフレック)が設立されています。
J-FLECのミッションは、「私たちは、一人ひとりが描くファイナンシャル・ウェルビーイングを実現し、自立的で持続可能な生活を送ることのできる社会づくりに貢献します。」となっています。ここで、出てくる「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは一体何を意味するのでしょうか。今回は、近年注目され始めている「ファイナンシャル・ウェルビーイング」についてご説明します。
そもそもウェルビーイングとは?
「ファイナンシャル・ウェルビーイング(financial well-being)」の説明に入る前に、まずウェルビーイング(well-being)からご説明します。
ウェルビーイングは一般的に「幸福」「健康」「福祉」などと訳されることが多いようですが、もともとは世界保健機関(WHO)憲章における「健康」の定義で使われた言葉と言われています。
(ウェルビーイングとは?)
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”(原文)
ここで、「well-being」の部分に着目すると「満たされた」となりますが、well beingという英語の表現からすると「よい状態にある」「良好な状態にある」ことと言えます。「ファイナンシャル(financial)」とは、「金融の」「財務の」といった意味ですから、個人という視点では「お金の面で」「家計的に」「経済的に」といった意味合いになります。つまり、ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、「お金の面でよい状態にある」こととなります。
ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?
この「お金の面でよい状態にある」というのは、具体的にはどのような状態でしょうか。収入が1,000万円など多いことでしょうか、それとも資産を1億円持っているなどいわゆる”お金持ち”の状態でしょうか。
ここでは、一般的によく引用されている、米国の消費者金融保護局によるファイナンシャル・ウェルビーイングをもとにご説明します。それによるとファイナンシャル・ウェルビーイングとは
とされています。
これをさらに深堀りすると、次のように「現在」と「将来」、「安心感」と「選択の自由度」という2×2の表に整理されています。①から④について順を追ってご説明します。
現在 | 将来 | |
---|---|---|
安心感 | ① 毎日や毎月の支払を管理できる | ② 金銭的なショックを吸収できる能力 |
選択の自由度 | ③ 人生を楽しむために お金の面で幅広い選択ができること | ④ 金銭的な面での目標に向けて 軌道に乗っていること |
出所:“Financial well-being: The goal of financial education”(Consumer Financial Protection Bureau /消費者金融保護局, January 2015)より、筆者訳
- ①
- 「現在」の「安心感」というのは、毎日や毎月の支払いをきちんと管理できることです。家賃や住宅ローン、水道光熱費や通信費、クレジットカードの引き落としなど、日々の支払いを管理し、滞りなく行えている状態です。
- ②
- 「将来」の「安心感」は、いつ何時起こるともわからない事態に備えられているかどうか、というものです。具体的には火災や地震によるマイホームの損害、生計維持者の死亡による収入の喪失などに備えられているかどうかです。一般的には、社会保障などの公的保険、手元の金融資産、頼れる親族、民間保険などで備えていくことになります。
- ③
- 「現在」の「選択の自由度」は、人生を楽しむために幅広い選択肢を持つことができているかです。日々の生活に必要な”ニーズ(needs)”のみならず、あんなことをしたい、こんなことをしたいという”ウォンツ(wants)”を叶える余力があるかどうかです。例えば、ちょっといいレストランで食事ができるか、夏休みなどの長期休暇に旅行など存分に楽しむことができるか、といったことになります。
- ④
- 「将来」の「選択の自由度」は、マイホーム、子どもの教育費、老後資金など、将来のライフイベントなどに関して選択肢を持ち、それに向けて準備が進んでいるかどうかです。例えば、マイホームを3年後に買いたいのでその頭金を準備するという目標に向けて計画的に進められているかどうか、現役引退後は地方に移住したいという計画があり、そのために計画的に準備ができているかどうか、といったことになります。
お金があるからといってファイナンシャル・ウェルビーイングとは限らない
ここで大切なことは、収入が多いから、資産をたくさん持っているからといって必ずしもファイナンシャル・ウェルビーイングが達成できているとは限らないことです。お金をたくさん持っていたとしても、将来かかるお金の見通しが持てていなかったら、漠然とした不安を持ち続けることになり、ファイナンシャル・ウェルビーイングが実現できているとは言えません。
見方を変えると、収入が少ない人や、資産が多くない人であってもファイナンシャル・ウェルビーイングを実現できる可能性はあると言えます。日々の支出をしっかりと管理した上で、ご自身なりのライフプランを作成、それに基づいた将来のお金を見える化することで、将来に向けた漠然とした不安が軽減され、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくことが可能なのです。
ファイナンシャル・ウェルビーイングが達成できていないと感じる方は、一度立ち止まって、家計の把握、ライフプランやマネープランの作成などをしてみることをおすすめします。